平成23年1月9日,「とんかつ和幸」を経営する和幸商事株式会社に対し,その元社員が「未払い残業代」の支払いを求める訴訟を横浜地裁川崎支部に提訴しました。
http://kishadan.com/lounge/table.cgi?id=201001291904215
ここまでは,よくある話です。
しかし,元社員は,平成17年12月末に退社しています。
そうなると,未払い残業代など賃金の請求権の消滅時効が2年であるため(労基法115条),元社員は,労基法に基づいて「未払い残業代(賃金)」の支払いを求めることはできません。
そこで,元社員は,民法の不当利得に基づいて「未払い残業代」の支払いを求めたのです。
不当利得に基づく請求権の消滅時効は,10年です(民法167条)。
これまでは,「未払い残業代は過去2年分」という,ある意味リミットがありました。
しかし,もし,このような請求原因での訴えが認められると,過去10年分の未払い残業代がその範囲となり,その金額は,膨大なものになってしまいます。考えるだけでも恐ろしいことです。
民法703条は,「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け,そのために損失を及ぼした者は,その利益の存する限度において,これを返還する義務を負う。」と規定しています。
これが「不当利得」です。
サラ金に対する過払金の返還請求も,この不当利得に基づいています。
すなわち,利息制限法に違反して,つまり「法律上の原因がない」にも関わらず,利息制限法の制限利率を上回る利息を取っていたのだから,その超過部分の利息を返還せよ,というものです。
これと同じ理屈で,元社員は,残業(法定時間外労働)についても,法律上の原因がない,つまり,会社は,法律で定められた労働時間(8時間)を超える違法な労務提供を受け,利得を得ているのだから,その利得を返還せよ,と訴えているのです。
果たしてこのような訴えが認められるでしょうか。
これでは,賃金の消滅時効を2年の短期とした趣旨が没却されてしまいます。
そして,36協定を締結している場合には,協定で定めた労働時間の範囲内であれば,残業は適法であり,「法律上の原因なく」とは言えないと思います。
しかし,36協定を締結していない,あるいは締結していても定めた労働時間を超える部分については,「法律上の原因なく」と認定されてしまう可能性もあります。
不当利得として認められるためには,会社に「利得」や元社員に「損失」など他にも要件が必要なので,この訴えが認められるか否かは分かりません。
ただ,いずれにしても過払金返還訴訟の場合と同じく,今後,このような様々な請求原因での訴訟が頻発するだろうし,裁判所も消費者や労働者を保護する法解釈(前記の「利得」や「損失」などの要件解釈)をする傾向がありますので,これらの要因が相俟って,会社にとっては厳しい判例理論が構築されていく可能性は高いと思います。
このような波に飲まれないようにするためにも,早めの残業代対策が必要です。

