残業代請求
【弁護士監修】残業代の正しい計算方法とは?2019.08.09
「時間外手当などの金額が本当に正しいのかよくわからない。」
「そもそも残業代ってどうやって計算するの?」
給与明細を見て、ふと自分の会社の残業代が正しく計算され、きちんと支給されているのか気になったことはありませんか。
法律では、1日8時間以上、1週間で40時間以上働くと、働き方に応じて残業代が発生します。残業代が発生した場合、会社はそれも給与として支払うことになるので、もし残業代が正しく計算されず、未払い賃金が発生している場合、会社に未払い残業代を請求することができます。
このコラムでは、残業が発生する仕組みについて弁護士が解説します。残業代の仕組みを正しく理解し、ご自身の給与は残業代が正しく計算されているか確認してみましょう。
目次
残業代が発生する仕組み
残業代発生の仕組みを理解するために、まず「残業(時間外労働)」について解説します。
実は、「残業(時間外労働)」には、法外残業と法内残業の2種類があります。
まず、「法外残業」とは、労働基準法で定められた労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて働いた時間のことです。一般に「残業代」と呼ばれる割増賃金(わりましちんぎん)が発生するのは、法外残業の方になります。
一方で、「法内残業」とは、労働者と使用者との間で決められた「所定労働時間」を超えて労働した時間をいいます。たとえば、9時始業・17時半終業・昼休憩1時間の会社だと、1日の所定労働時間は7時間30分になります。この会社で18時まで働いた場合、「1日8時間は超えていないけれど、7時間30分はオーバーしている」という状態になりますよね。これが法内残業です。後で述べるとおり、法内残業の分も残業代が支払われるかは場合によります。
法外残業と法内残業につき、詳しく見ていきましょう。
法外残業:法定労働時間は原則1日8時間、1週間40時間まで!
労働基準法で定められた労働時間(法定労働時間)「原則1日8時間、1週間40時間」を超えて労働をすると、法定時間外労働(法外残業)となり、ここで残業代が発生することになります。
※ただし、業種や会社の規模、制度によっては法定労働時間が1日8時間・週40時間でないケースもありますので、注意が必要です。
ここで、そもそも「労働時間」とは何を指すのかが大きな問題となります。厳密に考えるととても難しい問題なのですが、ここでは「使用者(会社)の指示にしたがって働いていた時間」または「待機時間であっても、指示があればすぐ働かなければならなかった時間」と考えてください。たとえば次の場合は実働時間に含まれませんので、残業代を計算するときには除外する必要があります。
- 休憩時間
- 有給取得日
- 遅刻早退などで勤務していなかった時間帯
【ポイント1】
法律で定められた労働時間「原則1日8時間、1週間40時間」を超えた労働が法外残業になります。休憩時間など、労働時間に含まれない時間は、残業代の計算からは除外してください。
法定時間外労働と法内残業の違い
次に、「法内残業」について説明します。
「法内残業」とは、労働者と使用者との間で決められた「所定労働時間」を超えて労働した時間をいいます。所定労働時間の内容については、会社の就業規則や雇用契約のなかで決定事項が記載されていると思いますので、そちらをご確認ください。
※使用者(会社や個人事業主)においては、就業規則や賃金規定などの周知義務があるため(労働基準法106条1項)、事業主側に申し出ることで閲覧することができます。
そして、この所定労働時間を超えて働いた時間が法内残業となります。
たとえば、始業時刻午前9:00、終業時刻午後5:00、休憩時間1時間の場合、実働時間は7時間で、この「7時間」が会社の定めた所定労働時間です。
所定労働時間を超えた場合、その長さが法定労働時間の1日8時間に達していなくても時間外労働となります(法内残業)。
この会社では、午前9:00から午後6:00まで仕事をした場合、実働8時間で所定労働時間の7時間を1時間超えますので、午後5:00から6:00までの1時間が法内残業となります。
実は、法内残業は、法外残業と異なり、「法律上、当然に残業代が支払われる」というわけではありません。
多くの会社では、就業規則などで「法内残業にも残業代を支払う」と定められていますが、そうした規程がない場合、法内残業に残業代が支払われるかどうかについては争いがあります。実際に法内残業についての残業代請求を行う際は、弁護士に相談することをおすすめします。
【ポイント2】
残業代の計算は、労働した時間を大きく2つに分けて考えます。
- 法定時間外労働
- 法定労働時間の「1日8時間、1週間40時間」を超えた労働のこと。割増率は1.25倍。
- 法内残業
- 法定労働時間「1日8時間、1週間40時間」には達しないけれども、会社が就業規則で決めた労働時間(所定労働時間)を超えて行った労働のこと。基本的に割増はしない。
※割増率については「2-4.割増率は残業の種類で異なる」で詳しく説明しています。
残業代は朝の時間外労働でも発生する可能性がある
「残業」と聞くと、夜遅くまで職場に残ってしている労働をイメージするかもしれませんが、実は始業時刻前の朝の労働にも残業代が発生する可能性があります。
- 【例】始業時刻午前9:00、終業時刻午後6:00、休憩時間1時間の会社の場合
- 会社の指示で始業時刻より早く出勤してやらなければならない仕事があり、午前8:00に出勤して定刻の午後6:00に退社したとします。
この場合、休憩時間1時間を除き実働は9時間ですから、法定労働時間の8時間を超えた1時間分に残業代が発生します。
残業代の正しい計算方法
残業時間と判断するための法定労働時間と、法定時間外労働・法内残業の定義についてわかったところで、ここからは残業代の正しい計算方法について説明していきます。
※厳密な計算式がありますが、わかりやすく説明するため、ここでは目安がわかる計算方法を中心にご紹介します。
残業代の基本的な計算方法
残業代は基本的に次の計算式で概算できます。
(A)1時間あたりの賃金(時給・円)×割増率(1.25など)×残業時間(時間)
※除外する手当や当てはめる割増率などにも注意が必要です。詳しくは「2-3.一部の手当は除外する」「2-4.割増率は残業の種類で異なる」でご説明します。
例えば、1時間あたりの基礎賃金1,200円で1ヶ月に30時間の法外残業(深夜・休日でない時間)をした場合、次のように計算します。
残業代=時給1,200円×1.25×残業時間30時間=45,000円
この1ヶ月の残業代は45,000円となります。
1時間あたりの賃金(時給)の計算方法
残業代の計算は1時間あたりの賃金(基礎賃金)によりますが、月給制の場合は1時間あたりの基礎賃金がすぐにはわからない場合が殆どかと思われます。月給制の場合、1時間あたりの賃金を計算してから上記の計算式にあてはめます。
1時間あたりの賃金の厳密な計算は複雑になりがちです。おおよその1時間あたりの賃金を知りたいときは次の計算式を使うとわかりますので、こちらで概算してください。
(B)月給÷1日の所定労働時間(時間)×21=目安となる1時間あたりの賃金(時給)
例えば、月給20万円、午前9:00から午後6:00で実働8時間、1ヶ月30時間残業したとき、残業代の基本的な計算方法(A)に目安となる1時間あたりの賃金(B)を当てはめて、次のように概算できます。
※(B)の式を用いて、目安となる1時間あたりの賃金を計算すると、1,190円になります。
1,190円×1.25×30時間=44,625円
この1ヶ月の残業代は44,625円となります。
1ヶ月あたりの平均所定労働時間を使ってさらに詳しく計算する方法
より詳細を知りたいときは、1ヶ月あたりの平均所定労働時間を計算して、次のようにさらに厳密に算出することもできます。
年間所定休日とは、会社が定めている土日祝日を含む1年間の休日日数のことです。
※閏年のときは366日で計算します。
(C)1ヶ月あたりの平均所定労働時間=(365日-年間所定休日日数)×1日の所定労働時間(時間)÷12ヶ月
1時間あたりの賃金=月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間
これらの計算を使って残業代を求めると、次のようになります。1時間あたりの賃金に割増率と残業時間をかけるという基本的な計算式は同じです。
月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間×割増率×残業時間
1時間あたりの賃金(時給)の計算方法
残業代計算のもととなる賃金(基礎賃金)には、一部の手当が含まれません。なぜなら、基礎賃金とは「通常の労働時間又は労働日の賃金」に限られるからなのです。家族手当を例に考えればわかることですが、同じ月給で同じ時間残業しているのに、子供のいる人(家族手当あり)といない人(家族手当なし)で残業代が違ったら不公平ですよね。
このため、労働とは直接の関係性が薄い手当、個別の事情に応じて支払われる手当については、残業代の計算では除外されます。たとえば以下の手当等は除外して計算する必要があります。
- 家族手当
- 扶養手当
- 通勤手当
- 単身赴任手当(別居手当)
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時で支払われた手当(結婚手当、出産手当など)
- 一ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、精勤手当など)
割増率は残業した日や時間帯で異なる
すでに説明した通り、残業代は次の計算式で計算します。
1時間あたりの賃金(時給・円)×割増率(1.25など)×残業時間(時間)
割増率は、残業時間が法内残業か、1日8時間1週間40時間を超えた法定時間外労働か、午後10:00~午前5:00までの深夜残業か、法定休日の残業かなど、残業した日や時間帯
残業の種類と割増率
残業の種類 | 割増率 | 残業代が発生する条件 (残業の時間帯、働き方、長さなど) |
---|---|---|
法内残業 | 割増なし(1倍) | 法定労働時間は超えないが、所定労働時間を超えた労働 |
法定時間外労働 | 1.25倍 | 1日8時間、1週間40時間を超えた労働 |
法定時間外労働 | 1.25倍 | 1ヶ月45時間以内の残業 |
法定時間外労働 | 1.25倍を超える率になるよう努めること | 1ヶ月45時間を超え60時間以内の残業 |
法定時間外労働 | 1.5倍※1 | 1ヶ月60時間を超えた残業 |
深夜残業 | 0.25倍 | 午後10:00~午前5:00の残業 |
法定時間外労働+深夜残業 | 1.5倍※2 | 法定時間外労働が深夜時間帯にも及ぶ残業 |
休日労働 | 1.35倍 | 法定休日の労働※3 |
休日労働+深夜残業 | 1.6倍 | 法定休日労働が深夜時間帯にも及ぶ残業 |
※1:現在、60時間規制は大企業に限定されており、中小企業への適用は猶予されていますが、2019年4月の法改正によって将来的には中小企業のにも60時間規制が及ぶことが決まっています。
※2:大企業では1.75倍になります。
※3:法定休日ではないが会社が定めた所定休日(創立記念日等)の場合は時間外労働だが、割増賃金の規定はない
- 割増賃金は法律で決まった労働者の権利
- 割増賃金を請求するのは労働者の権利であり、支払うのは雇用主の義務です。法に反する取り決めや合意が労使間でなされていても、それは無効となります。会社は法律に基づく割増率で残業代を支払わなければなりません。
もし会社が「割増賃金は支払わないと規則で決まっている」といった話をしている場合、違法の可能性があります。もしご自身で残業に関する詳細の状況を見極めることに不安がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。
固定残業代制(みなし残業)について
法律では、残業代が発生するかどうかは労働実態から判断されます。フレックスタイム制や裁量労働制などの勤務体系や、役職手当がつく管理職などは、残業代が発生しているかどうかわかりにくく、残業代不払いの温床になっています。
例えば、固定残業代制(みなし残業)もその1つです。固定残業代制度(みなし残業)とは、前もって定めた残業時間分の残業代を、毎月の給与に合算して支払う制度です。毎月の賃金には決まった額の残業代も含まれているので「毎月残業代は支払われている」という感覚になりがちですが、前もって定めた残業時間以上の残業をしていたら、その差額分を会社は支払わなければなりません。また、そもそも固定残業代(みなし残業)の制度がいい加減で、裁判では無効となるケースも相次いでいます。
残業代は、労働実態に基づいて計算していくことが法律で定められています。
「会社の就業規則で支払わないと書かれていたから」
「既に手当をもらっているから」
といったことは、残業代が支払われない根拠にはなりません。残業代の計算をする際には、あなたの労働実態に基づいて計算をすることが大切です。
まとめ
残業には、法定時間外労働と法内残業があって、法定時間外労働は1日8時間、1週間40時間を超えると発生します。
残業代の計算式は、1時間あたりの賃金×割増率×残業時間です。
除外しなければならない手当や残業の種類に合わせた割増率があり、その計算方法は複雑に感じるかもしれません。
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